目次
- 1 細胞老化・細胞死研究の新たなフロンティア
- 2 認知症に対する抗体療法の出現で何が変わるのか?
- 3 免疫・炎症・酸化ストレス
- 4 抗加齢医学における感染症対策の位置づけ
- 5 ホルモン補充療法ガイドライン2025
- 6 加齢性疾患に対するサプリメントの介入
- 7 老化細胞におけるエピゲノム異常
- 8 呼吸器疾患と老化
- 9 若い感覚をキープする
- 10 サプリメントを見直す!安全かつ効果的なサプリメントの利用
- 11 超高齢社会のロコモ対策・早期発見・早期治療の実現に向けた戦略
- 12 口腸連関から紐解く加齢性疾患制御の基礎と臨床展開
- 13 抗加齢医学と腸内細菌代謝物・ポリアミン研究の最前線
- 14 精神・心理的フレイル予防の最前線
- 15 肝臓リハビリテーションで目指すアンチエイジング
- 16 エイジング・クロック-客観的老化の指標
- 17 腸内細菌から循環器・腎臓・代謝内分泌疾患を考える
- 18 こころと脳の健康とアンチエイジング
- 19 人生ずっとアンチエイジング
- 20 地球環境の健康に与える影響
- 21 ちょっと気になる領域の抗加齢アプローチ
- 22 低栄養と体重管理をアンチエイジングの視点で考える
- 23 褒章制度受賞者講演
- 24 優秀演題受賞講演
- 25 教育講演
- 26 2050年の未来医療予想図
細胞老化・細胞死研究の新たなフロンティア
細胞老化、癌の代謝戦略、および細胞死のメカニズムという三つの主要なテーマに関する科学シンポジウムの内容。大澤先生は、ニュートリオミクスというデータ駆動型研究を通じて、癌細胞が栄養環境に適応するための多重の代謝機構と、グルタミンがゴルジ体やミトコンドリアといった細胞内小器官(オルガネラ)の構造維持に果たす役割を詳細に解説。森先生と高橋先生による発表では、鉄代謝異常と脂質過酸化に依存する細胞死であるフェロトーシスに焦点が当てられ、特に肝障害や虚血再灌流障害への関与が、FBXL5ノックアウトマウスモデルや臨床データを用いて示された。高橋先生は、炎症性細胞死であるパイロトーシスの分子機構をNLRP3インフラマソームの活性化を軸に説明し、フェロトーシスとともに循環器疾患や肝疾患の治療標的としての可能性を論じた。代謝制御と細胞死という生命現象の根幹が、老化や様々な疾患の病態にどのように深く関わっているかを最先端の研究から明らかにされた。
認知症に対する抗体療法の出現で何が変わるのか?
アルツハイマー病(AD)の治療法と診断技術に関する最新の進歩と課題について包括的に概説。戸田先生の発表は、アミロイドβを標的とした抗体療法が臨床で承認された成功に言及しつつ、タウN末端を標的とした抗体は効果が示されていない現状と、異なる標的アプローチの可能性を論じた。岡澤先生は、ADの客観的な診断においてアミロイド/タウPET分子イメージングが非侵襲的で重要な役割を果たすことを強調し、国内でのPET薬剤の承認状況や保険診療費用についても具体的に示した。山下先生は、抗アミロイド抗体療法の主要な副作用であるアミロイド関連画像異常(ARIA)に焦点を当てており、APOE ε4キャリアなどのリスク因子、発症メカニズムの仮説、およびシロスタゾールやエダラボンを用いたARIAの予防戦略について詳細に説明。総じて、AD治療の最前線における進歩、診断ツールの有用性、および治療に伴うリスク管理の重要性を示された。
免疫・炎症・酸化ストレス
加齢と疾患における脈管系および免疫系の機能的変化に関する高度な研究発表を概説。特に、心不全が造血幹細胞に「ストレス記憶」を刻み、TGF-βシグナルの低下を通じてミエロイド系細胞の異常な分化を誘導し、全身の多病態(マルチモビディティ)の基盤となるメカニズム(SY4-1, 造血免疫系)が示された。また、TGF-βシグナルは血管やリンパ管の内皮細胞にEndoMT(内皮間葉系転換)を引き起こし、加齢に伴う脈管の機能低下や緑内障発症に関与する役割(SY4-4, 脈管恒常性)が詳細に論じられた。さらに、COVID-19の重症化においては、抗炎症性サイトカインIL-10がマクロファージをウイルス感染に適した状態に変化させ、特に遺伝的要因に基づく新規ハイブリッドmRNA「CIDER」の存在がIL-10とインターフェロンのシグナル伝達を二重に障害することで重症化を促進するメカニズム(SY4-2, マクロファージとCOVID-19)が提唱された。これらの研究は、炎症やストレスがマクロファージや内皮細胞の機能的多様性を変化させ、全身性の疾患病態に深く関わることを示している。
抗加齢医学における感染症対策の位置づけ
腸内細菌叢のバランスが薬剤耐性菌(AMR)制御と感染症予防に果たす重要な役割に焦点を当てた。特に、酪酸産生菌が長寿や重症感染症による入院リスクの低減、さらには呼吸器感染症に対する抗ウイルス効果のメカニズム(GPR120受容体や長鎖脂肪酸を介した作用)に関わることが、臨床および基礎研究データから示された。また、「ワンヘルス」の概念に基づき、AMR対策には人だけでなく家畜や環境衛生を含めた統合的なアプローチが必要であること、そして食事やプロバイオティクスによる腸内環境の改善が、予防的な戦略として極めて重要であると強調された。さらに、抗菌薬の影響を鋭敏に反映する腸内細菌叢ベースのリスク評価手法(MARS法)の紹介や、女性生殖器感染症における膣内細菌叢(特にLactobacillus属の種差)の重要性についても議論された。
ホルモン補充療法ガイドライン2025
ホルモン補充療法(HRT)ガイドライン2025年版の改訂概要と、関連する臨床的課題に焦点を当てた。HRTガイドラインの進化を解説し、特にGRADEシステムを採用したCQ(Clinical Question)形式による推奨度の評価方法を強調。HRTの適用において慎重な判断が求められる子宮内膜症や子宮筋腫といったホルモン依存性疾患を持つ女性への対応、および更年期におけるうつ状態などの精神神経症状に対するHRTの効果と、女性特有の社会的要因との関連を論じた。さらに、HRTがもたらす悪性腫瘍(癌)のリスクとベネフィットを詳細に分析しており、特に乳癌リスクは黄体ホルモンの種類によって変動することや、個々の患者背景に基づいた個別化された治療選択の重要性が一貫して示された。
加齢性疾患に対するサプリメントの介入
サプリメントやアロマセラピーを用いた高齢者疾患および生活習慣病の予防と治療の可能性について、複数の専門家がそれぞれの研究成果を発表し議論した。具体的には、アルツハイマー型認知症に対するアロマセラピーの嗅覚・認知機能改善効果や、肥満・糖代謝異常に対する緑茶カテキンや難消化性デキストリンなどのサプリメントの有効性が、作用機序の解説とともに示された。さらに、癌(慢性骨髄性白血病とホルモン療法抵抗性乳癌)に対するスチルベン誘導体(プテロスチルベン・レスベラトロール)の抗腫瘍効果について、標準治療抵抗性の細胞株に対する効果など、画期的な基礎研究結果が報告された。総じて、これらの天然化合物や代替療法が、低コストかつ低副作用で、個別のプロファイルに基づいた予防医療や既存治療の補助に貢献する可能性が強調された。
老化細胞におけるエピゲノム異常
細胞老化(Senescence)におけるエピジェネティクス、代謝、およびレジリエンス(回復力)の制御メカニズムに焦点を当てた。中尾先生の発表は、老化細胞の有害な因子群であるSASP(老化関連分泌現象)の発現が、ACLY-BRD4を介したアセチルCoA代謝とヒストンアセチル化によって厳密に制御されていることを示し、老化状態を維持しつつSASPのみを抑制するセノスタティクスという治療戦略の可能性を提示。一方、近藤先生の発表は、老化に伴うレジリエンスの低下(フレイル)という概念を提示し、老化細胞の代謝異常に注目し、解糖系酵素PGAM1とChk1の結合を阻害する新規化合物が、老化細胞を除去するセノリシス効果を持つことを報告。全体として、これらの研究は、代謝とエピゲノムの異常が老化の進行とレジリエンスの喪失に決定的に関与しており、それらを標的とするセノセラピーの開発が進んでいることを示していた。
呼吸器疾患と老化
加齢と呼吸器疾患に焦点を当て、慢性閉塞性肺疾患 (COPD) や喘息などの病態生理、そして新規治療戦略について概説。加齢に伴う呼吸機能の構造的・機能的変化と、COPDの進行における細胞老化(セノセラピー)の関与が詳細に検討され、特にオートファジーやマイトファジーの不全が細胞老化を促進し、ペマフィブラートがこの老化を抑制する可能性が示唆された。また、肺がん免疫療法の課題、特にCAR-T細胞が抗原に慢性的に曝露されることで生じるT細胞疲弊に光を当て、NR4A遺伝子のトリプルノックアウトがミトコンドリアの恒常性を改善し、細胞疲弊を防ぐ効果があることが示された。全体を通して、老化という根源的なメカニズムが呼吸器疾患や免疫細胞の機能不全に深く関わっていること、およびそのメカニズムを標的とした新たな治療法の開発が重要であることが強調された。
若い感覚をキープする
加齢やストレスが様々な感覚器や疾患に与える影響、およびそれに対する治療戦略を提示。一つ目の焦点は、糖尿病や加齢に伴う網膜の循環不全には共通の分子メカニズムが存在する可能性があり、新規治療が期待される点です。二つ目は、ドライアイが老化疾患であるという知見に基づき、免疫細胞の老化や炎症が病態を悪化させるメカニズムの解明と、それに対する新規点眼薬の開発を目指した研究が進められていた。三つ目の焦点は、出生前のストレスがマウスにおいて抗酸化酵素カタラーゼの発現低下を引き起こし、加齢性難聴を加速させるという衝撃的な発見。最後に、難聴が認知症の最大の危険因子であり、平均聴力38.75 dB HLに達したら早期に適切な補聴器装用を始めることで、認知機能低下リスクを軽減できる可能性が示された。
サプリメントを見直す!安全かつ効果的なサプリメントの利用
サプリメントと医薬品の相互作用、サプリメントの品質と安全な選び方、および高齢者医療における栄養素の臨床的意義という三つの主要なテーマ。特に、オメガ3、ビタミンD、鉄、NMNといった一般的に使用されるサプリメントの臨床的データと潜在的なリスクが検討され、相互作用に関する医療従事者の知識向上の必要性が強調された。また、サプリメントは工業製品であり、その品質は製造基準(GMP)や温度管理に大きく左右されるため、消費者は広告ではなくパッケージの裏面情報を重視すべきという製造者側の視点からの提言もなされた。最終的に、葉酸やビタミンDなどの栄養補助食品が、認知症予防やフレイル対策といった高齢者の健康寿命延伸戦略において重要な役割を果たす可能性が示された。
超高齢社会のロコモ対策・早期発見・早期治療の実現に向けた戦略
高齢者の運動器疾患、特に腰部脊柱管狭窄症 (LSCS)、骨粗鬆症、サルコペニアの病態と連鎖、およびその早期診断と介入の可能性に焦点を当てた。LSCS患者では高頻度にトランスサイレチン型アミロイドが黄色靱帯に沈着し、これが心アミロイドーシスの先行徴候となる可能性が示された。また、骨粗鬆症とサルコペニアは互いに発症リスクを高め合う密接な関係にあり、骨の強度が骨密度だけでなくコラーゲンの質的劣化(AGEs蓄積)に大きく依存することが強調された。さらに、膝変形性関節症(OA)の初期病態として、従来の軟骨摩耗よりも早期に半月板の逸脱や骨棘形成が関与する新たな進行モデルが提案され、これら運動器疾患の進行を食い止めるためのAI診断技術やバイオマーカー(ペントシジンなど)を用いた予防戦略が議論された。
口腸連関から紐解く加齢性疾患制御の基礎と臨床展開
歯科医療が全身の健康、特に生活習慣病(NCDs)と老化の予防において「上流イベント」として極めて重要であるという新しい臨床的アプローチを概説。このアプローチでは、口腔内の病原菌の除菌と咀嚼機能の回復が、腸管ディスバイオーシスの改善や、糖質代謝・体組成の悪化(フレイルやサルコペニア)を防ぐ上で不可欠であると論じられた。また、唾液の抗酸化能をESR法で測定する新しい検査法が、全身の酸化ストレスや早期老化の進行度を非侵襲的に評価する手段として導入され、歯科医療が栄養指導を含む包括的な健康管理へと拡大する未来像が提示された。
抗加齢医学と腸内細菌代謝物・ポリアミン研究の最前線
ポリアミン代謝と腸内マイクロバイオームを介した老化およびアルツハイマー病(AD)抑制に関する二つの研究発表の概要。松本先生は、腸内細菌由来のポリアミンが加齢によるポリアミン減少を補う貴重な供給源となる可能性を示し、アルギニンと特定のビフィズス菌を組み合わせたシンバイオティクスが血中ポリアミン濃度を上昇させ、動脈硬化予防に繋がることを実証。南沢先生は、ADモデルマウスにおいてL-アルギニンと柑橘類由来のリモノイドを併用投与することで、末梢のポリアミン代謝不全と炎症が劇的に改善し、ADの病態が抑制されるメカニズムを解明。両発表とも、ポリアミンが細胞の基本的な生存プロセス(eIF5Aのハイプシン化やオートファジー)に深く関与しており、脳と末梢(腸や膵臓)の相互作用を介して健康寿命の維持に極めて重要であることを示唆した。
精神・心理的フレイル予防の最前線
高齢化社会における「健康な高齢化(Healthy Ageing)」の社会実装と、その具体的な医療介入および予防策に関する二つの独立した発表を概説。北野先生は、「笑顔と健康プロジェクト」として、アンチエイジングドック「AAD Life Works」を用いて機能年齢と老化危険因子を総合的に評価し、心身ストレスや疲労の蓄積を可視化することで、行動変容支援やワーク・エンゲージメントによる精神的健康の促進を目指す取り組みを紹介。羽藤先生は、加齢性難聴を国家的な課題と捉え、活性酸素による酸化ストレスが進行の主因であるとの知見に基づき、抗酸化作用を持つ水素吸入療法が難聴予防の新たな介入策として有効である可能性が、動物実験や臨床試験の結果とともに示された。生活習慣や環境といった後天的要因が健康長寿に大きく影響するという共通認識のもと、予防と啓発の重要性を強調された。
肝臓リハビリテーションで目指すアンチエイジング
肝臓リハビリテーションを核として、サルコペニア(筋萎縮)と肝疾患、特にMASLD(代謝機能障害関連脂肪性肝疾患)および肝硬変の進行との複雑な関連性を包括的に概説。加齢がMASLDの進行と骨格筋萎縮を促進する独立したリスク因子であるという基礎的な動物実験データを示し、肝臓と筋肉がヘパトカインを介して相互に影響し合うメカニズムを解説。さらに、運動療法と栄養療法が肝疾患患者の予後とQOL改善に不可欠であること、特にL-カルニチン補充療法が肝細胞がんの薬物療法に伴うサルコペニアや疲労の予防に有効である可能性が示唆された。全体として、肝臓リハビリテーションを推進し、多職種連携による個別化された介入の必要性、および治療に伴う筋萎縮リスクへの慎重な配慮が強調された。
エイジング・クロック-客観的老化の指標
老化(エイジング)のメカニズムをトランスクリプトーム解析と腸内環境の二つの側面から科学的に解明し、客観的な指標(エイジング・クロック)を開発することに焦点を当てた研究シンポジウムの内容。村川先生らの研究は、RNAの合成(転写)と分解の動態に着目し、NET-CAGE法という独自技術を用いて真のRNA合成量を計測することで、加齢に伴う細胞のレジリエンス(回復力)機構の存在を示唆。一方、福田先生らの研究は、マウスモデルにおける加齢に伴う腸内細菌叢の変化が肥満や耐糖能悪化といった宿主の老化現象を促進する負のスパイラルを形成すること、また特定の腸内代謝物が寿命延長効果を持つ可能性を示した。これらの生物学的知見を踏まえ、櫻田先生は、AIを活用した汎用老化モデルを構築し、ライフコースデータを「状態」の概念として捉えることで、老化というプロセスを定量的に予測・介入するためのデジタルツインの社会実装を目指すという、理論物理学的なアプローチを提唱した。
腸内細菌から循環器・腎臓・代謝内分泌疾患を考える
腸内細菌叢が循環器代謝疾患および慢性腎臓病(CKD)に及ぼす影響に関する発表。山下先生による発表は、冠動脈疾患や心不全と腸内細菌の関連、特に動脈硬化を抑制する可能性のある善玉菌(Bacteroides vulgatusなど)の研究や、TMAO産生経路に関する最新知見が紹介。一方、吉藤先生による発表は、CKDにおける腸内環境の悪化(dysbiosis)が「リーキーガット」を引き起こし、尿毒症性物質の蓄積、インスリン抵抗性、サルコペニアといった合併症を悪化させるメカニズムが解説され、プロバイオティクスやSGLT2阻害薬による腸管介入治療の有効性が示された。両発表は、腸内細菌を標的とした新たな予防・治療戦略の重要性を強調された。
こころと脳の健康とアンチエイジング
マインドフルネス認知療法(MBCT)と認知症の新しいバイオマーカーに関する内容。佐藤先生による発表では、MBCTの構造、うつ病再発率の低下や企業における労働生産性向上などの科学的効果、そして効果メカニズムとしての「脱中心化」の概念が詳述。一方、武田先生による発表では、認知症の最新の疫学と予防可能な危険因子の存在が強調され、アルツハイマー病の早期診断のためのPETや髄液などのバイオマーカーの進展に加え、視線計測技術を利用したデジタルバイオマーカー「ミレボ」の実用化が紹介されており、早期診断の重要性が高まっている現状を示した。
人生ずっとアンチエイジング
アンチエイジングと健康管理の視点を「胎児期から小児期」へと早期化することの重要性に焦点を当てた。鈴木先生の発表内容に基づき、DOHaD説(健康と疾病の発達起源)を紹介し、成人期の疾患リスクや健康格差が胎児期や出生直後の環境によってプログラムされるという概念を説明。また、坂本先生の発表では、小児期からの運動器アンチエイジングの戦略が示されており、子どもの体力の低下や骨密度の減少といった問題に対し、適切な栄養(カルシウム、ビタミンD)と運動の組み合わせが不可欠であることが強調された。予防医学的アプローチを次世代に向けてライフコース全体で捉え直すべきという提言がなされた。
地球環境の健康に与える影響
PFAS(有機フッ素化合物)、マイクロプラスチック(MP)、および有害金属という三つの主要な環境汚染物質が人体に与える健康リスクと代謝障害について概説。PFASは極めて安定で残留性が高く、PFOAが発がん性物質(Group 1)に分類されるなど、肝臓障害や免疫毒性を含む広範な健康影響が指摘され、日本国内での水質汚染の実態と規制動向が説明された。また、MPやトランス脂肪酸の経口摂取は、腸内環境の悪化(リーキーガット症候群)を介して脂肪肝や糖尿病リスクを増加させるという共通のメカニズムを示した。さらに、有害金属の蓄積は不定愁訴や臓器障害の原因となり、キレーション治療による排出の重要性や具体的な症例が紹介され、環境毒物に対する防御とデトックスの必要性が強調された。
ちょっと気になる領域の抗加齢アプローチ
ウェルエイジングと疼痛治療、そして男性更年期障害(LOH症候群)の三つの医療トピックに関する専門的な講演。一つ目のテーマは、ピラティスをモーターコントロール(運動制御)のエクササイズとして捉え、骨粗鬆症患者への適切な運動指導の重要性や、姿勢の乱れが全身の健康に及ぼす悪影響を解説。二つ目のテーマは、慢性疼痛を「物理的痛み」と「化学的痛み」に分類し、薬物に頼らない筋膜リリース、プロセラピー、動注治療、幹細胞培養上清液といった先進的なインターベンション治療の具体例と、その抗加齢医学的意義を提示。三つ目のテーマでは、男性更年期障害の社会的認知度の低さや受診への障壁を指摘し、テストステロン補充療法の課題、精神疾患との鑑別、そして治療を成功させるための具体的な臨床戦略について論じられた。
低栄養と体重管理をアンチエイジングの視点で考える
日本における栄養問題と、それに関連する健康課題への多角的なアプローチについて議論。国民の食生活の現状と課題(特に食塩、野菜摂取の不足、高齢者の低栄養)が、最新の食事摂取基準や国民健康・栄養調査データに基づいて分析された。また、血液透析患者における低栄養とフレイル(虚弱)の悪循環に対処するための、運動療法と栄養介入を組み合わせた腎臓リハビリテーションの重要性も強調。さらに、鍼灸治療が低栄養によって引き起こされる自律神経の不調、睡眠障害、痛み、メンタルヘルスといった広範な症状をサポートし、地域包括ケアシステムの一環として機能する可能性が専門的な視点から提示された。
褒章制度受賞者講演
健康寿命の延伸を目指す内容。一つ目は、メラトニン代謝産物であるAMKが、高齢マウスの認知機能および脳のグルコース代謝を改善する可能性を示し、認知症予防への応用を提案。二つ目は、老化細胞の除去(セノリシス)や、心不全や慢性腎臓病などの線維化性疾患に関わる新規分泌タンパク質PCPE-1を標的とした創薬研究、および自然発症型心房細動マウスモデルの開発といった、心血管代謝性疾患に対する加齢抑制・リバース法を探求。三つ目は、生体内リプログラミングによる再生能の回復を目指す基礎研究と並行して、主観的幸福感に寄与する因子(人間関係、睡眠、高次生活機能など)を疫学的に調査し、「幸せに長生き」という包括的な目標を追求。
優秀演題受賞講演
加齢に伴う臓器機能の低下と、それに対する治療および予防戦略に関する研究発表。腎臓の老化に関する研究では、若年期の一過性のDNA損傷が近位尿細管の細胞老化を引き起こし、全身の代謝異常や腎障害を促進する可能性が示された。心機能の老化に関する発表では、加齢による心機能低下のメカニズムとしてHINT1タンパク質の増加とミトコンドリア機能の低下を特定し、カロリー制限やノンコーディングRNAであるCarenの補充が心機能改善に有効であることを報告。また、脳梗塞治療に関連する研究では、間葉系幹細胞(ADSC)のHGF発現レベルに治療効果の個人差があることを示し、HGF遺伝子導入によってADSCの神経機能回復能力を強化できることを実証。さらに、脂肪蓄積の抑制や、加齢によるMSCの機能低下とmiR-23b-3pの関係、卵子成熟度と卵胞液AMH濃度の関連など、多岐にわたる老化・再生医学的テーマが取り上げられた。
教育講演
高齢化と慢性疾患(マルチモビリティ)の予防および治療におけるアンチエイジング戦略。具体的には、糖尿病や生活習慣病が寿命短縮の主要因であり、その病態生理として終末糖化産物(AGEs)の蓄積と慢性炎症が中心的な役割を果たすことが示された。また、マルチモビリティ(多疾患併存)とフレイル(虚弱)の関連性が強調され、その進行を食い止めるための食事介入(AGEs制限、調理法の改善)、漢方薬、サプリメント(NMN、HMB)、およびホルモン補充療法の可能性が議論された。さらに、認知症の最新診断技術(PETイメージング)や、AGE/RAGEアプタマーといった革新的な治療法の研究開発が進められている現状を解説。
2050年の未来医療予想図
老化の治療と血圧管理の未来戦略という二つの異なる医学研究分野のトピックに関する専門的な発表。老化治療に関する発表では、順天堂大学の南野先生による発表に基づき、細胞老化が病態に果たす役割を説明し、特に老化抗原SGPを標的としたワクチン・抗体療法の開発や、SGLT2阻害薬が免疫系を介して老化細胞を除去するメカニズムが詳細に解説。一方、血圧管理に関する部分では、自治医科大学の芳尾先生が提唱する「パーフェクト24時間血圧コントロール」の概念が中心で、従来の定点測定ではなく、血圧変動性(サーカディアンリズムや血圧サージ)を重視し、ウェアラブル技術を用いた個別最適化医療を目指すアプローチが示された。既存の治療法の課題を克服し、より厳格な予防・介入によって疾患イベントゼロを目指すという共通の未来志向を提示。